先週公開した前編では、
・知的財産権とはなんのか
・輸入貿易を知的財産権はどのような関わりがあるのか
・どんな場合に問題になるのか
などについてご紹介いたしました。
後編では、
・知的財産権を侵害する行為がなぜ問題なのか
・トラブルを回避するためにはどうしたらよいのか
などを解説してまいります。
同じ商品を購入するとき、より安い価格で販売しているものをつい探してしまうのが人情というものです。誰だって損はしたくないですものね。
その心理をうまく利用できる輸入ビジネスとして、並行輸入などがあります。
もちろん、正しい手続きを経て合法的に行うのであれば、全くなんの問題もありません。
しかし残念なことに、低価格を実現するために正規品とは異なるルートで製造されたいわゆる“偽物”や“コピー品(模倣品)”を仕入れて販売するという手段をとる、という選択をしてしまうケースが後を絶ちません。
このような偽物・コピー品は、『意匠権』『商標権』『著作権』のいずれかを侵害している可能性が非常に高いです。そして、これらの権利やその保護法がなんのために設けられているのかを考えれば、おのずと冒頭のギモン『なぜ知的財産権を侵害するものを輸入してはいけないのか?』に対するこたえも出てきます。
財務省(税関)の広報によれば、知的財産権侵害物の輸入がかたく禁じられている理由は大きく分けて以下の3つとされています。
経済へ悪影響を及ぼすから
利用者に健康被害の恐れがあるから
反社会勢力の資金源になる可能施があるから
ではそれぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
本物と同等あるいは低価格で偽物が販売されると、本物の製造・販売にかかわる企業やクリエイターの利益が直接的に損なわれます。
また、品質面で本物に劣る偽物が流通することで、本物への信頼が低下し、結果として間接的に利益損失に繋がることもあり得ます。
医薬品や医薬部外品、化粧品、食品などの人体に直接作用するものは勿論、食器や調理家電、健康器具やおもちゃなど、さまざまな分野の物品の大半は、販売までに厳格な品質管理やチェックを経て、また場合によっては所定の機関から認可を得てから市場に流通しています。
ただし、偽物やコピー品はその限りではありません。ただ利益を得る為だけに管理の行き届かない環境で作られた粗悪品だったり、消費期限の切れた原材料が利用されている可能性もあります。実際に偽物を利用したことによる健康被害も報告されているとのことです。
本来であれば国内外問わず法律や条例によって禁止されていたり、取り締まりの対象になっているはずの知的財産権侵害物品(=偽物・コピー品)ですが、それらを違法に制作・流通させて利益を上げようとしている個人あるいは団体の裏には、高確率で犯罪組織などの反社会勢力が関わっているとされています。
物品の大小や数量、単価に関わらず、知的財産権の侵害を見逃すことは、重大な犯罪を見逃すことにもつながりかねないのです。
前編でもご紹介したとおり、輸入貨物が知的財産権侵害に該当するものだと判定された場合には、税関によりすべて没収、廃棄の処分が行われます。
多くは物品が没収・廃棄等されるだけですが、繰り返し行われているなど悪質と判断されたものは、場合によっては告発され、刑事罰が科されることもあります。
関税法では「10年以下の懲役若しくは 1,000万円以下の罰金、又はこれを併科する」と定められています。
ちなみに令和3年上半期は、輸入差止件数が2年連続で1万4千件超えだったと税関の発表がありました。これは前年同期と比べて5.0%減少しているものの、高水準であることは変わりません。また仕出国(地域)別の輸入差止件数では、中国が全体の80.3%(11,721件)を占めているとのことです。
また、令和3年上半期の集計では、差し止められた個数の多い物品のカテゴリ上位3つは以下の通りでした。
・電気製品(家電含む)
・衣類
・家庭用雑貨
そして、これらの大半は商標法に基づき商標登録された文字、図形等の「ロゴマークやブランド名」を不当に利用した商標権侵害にあたる物品だったようです。
上記3つのカテゴリは、昨今の『巣ごもり』によって需要が高まっている物品のジャンルとも一致しているので、市場での需要が高いものを取り扱う際には一層の注意が必要そうです。
ここまでの解説で、知的財産権を侵害する物品がどのような脅威となり得るかということはよくご理解いただけたのではないでしょうか。
では、ここからは、自分が知的財産権がらみのトラブルに巻き込まれないためにはどうしたらよいのか、その対策について考えていきましょう。
まず、どんなビジネスであっても、相手が信用に値するのかを見極めることが大事ですよね。
ですが、長年の取引で信頼関係の出来上がっている相手とばかりビジネスができるわけでもありません。
新規の取引先とビジネス関係を結ぶ際には、過去の実績や、業界での評判、ライセンスの保持など身元がきちんと確認できるかをチェックすることが重要です。
特に、有名ブランドやメーカー、キャラクターものについては、そのオリジナルの知的財産権を保有する法人や団体・個人が“ライセンスビジネス”を行っているのかがキーポイントになってきます。
ライセンスビジネスとは、ブランド保有企業が他の企業と契約を結びブランドの使用を許諾することで、収益とマーケティング機会を拡大させるビジネス手法のひとつです。
ブランドや、キャラクターなどの権利を所有する法人や団体、個人をライセンサー(Licensor)と呼びます。そのライセンサーとブランド・キャラクターの使用権許諾契約を結び、使用料を支払うことで、そのロゴやデザインなどを商品に使用し、製造・販売、またはサービスを提供する事業者のことはライセンシー(Licensee)と呼称します。
自分が取り扱いたいと思った物品については、まず以下のいずれに該当するのかよく確認してみてください。
・ライセンスフリー(著作権等が一切かかわらない)のものか
・ライセンサーが直接製造・販売しているものか
・ライセンス契約が証明できるライセンシーが製造・販売しているものか
すこしでも引っ掛かるところがある場合には、きちんと裏が取れるまで購入しない、もしくは他を検討するなどで自衛することができます。
万一のトラブルに備えて、責任の所在を明確にしておくためにも。取引の際に第三者の知的財産権を侵害していないことの保証について書面を交わすという対策もあります。
根本的に、該当商品に関係する知的財産権が日本で登録されているのかどうか、という点については、インターネットで商標を検索する、もしくは知的財産に関するプロフェッショナルである弁理士や、知的財産の分野に詳しい弁護士などの専門家に相談することも有効です。
また、海外では真正品として流通していても、日本の正規代理店などが国内市場で独自のルールを設けている場合や、商標の権利者が異なる場合、特許権などの問題で日本での販売が不許可とされている場合などもあり得るので、その点についても自己確認や専門家への問い合わせなど、対策を考えておく必要があります。
いかがでしたか?前後編を通して、輸入ビジネスを取り巻く知的財産権について理解を深めていただけましたでしょうか。
それでは最後にもういちど、輸入ビジネスにおける知的財産権トラブル回避のポイントをおさらいしておきましょう。
・取引先とビジネス関係を結ぶ際には、過去の実績や、業界での評判、ライセンスの保持など身元がきちんと確認できるかをチェックする
・ブランドやメーカー、キャラクターものについては、ライセンスの有無を特にチェックする
・輸入を検討している商品に関係する知的財産権が日本で登録されているかどうかは、インターネット検索、もしくは弁理士や弁護士などの専門家に相談する
・海外で真正品として流通している物品についても、念のため日本への輸入&販売に問題ないか確認を怠らない