9月上旬。少しずつ日の出が遅く、日の入りが短くなってきたのを実感しつつも、日中はまだ夏の名残を感じる今日この頃。
中国ではそろそろ秋の節句『中秋節』の連休を迎えます。
今回のブログでは中秋節と、この時期なんとなく食べたくなるあのお菓子、中秋節名物の『月餅』について解説してまいります。
日本でも秋のシーズンイベントとして『中秋の名月』、を愛でるお月見がありますよね。
澄んだ夜空にまあるく輝く美味しそう・・・ではなく、美しい十五夜のお月さまと、月に見立てたお団子が盛り付けられた三方、あとは飛び跳ねるうさぎなんかもよくあるビジュアルイメージです。
このお月見の風習が日本に伝わったのは平安時代。元になっているのが、中国の風習である『中秋節』です。唐王朝との貿易(遣唐使による朝貢貿易)を通じて伝来した様々な文化のひとつなんですね。
月を祀る風習は、考古学的に実在が確認されている中国最古の王朝である殷(商とも)の時代(紀元前17世紀頃)から続いていたとされています。
それが伝統的な季節のお祭りとして定着したのが唐の時代(618年-907年)で、その後の宋時代に盛んになったようです。現在でも中秋節は、春節(旧暦の元旦)に次ぐ伝統的祭日です。旧暦の8月15日を基準にするため、現在の暦法では日程が毎年変わります。
2022年の中秋節は9月10日(土)で、12日(月)までが3連休となっています。
嫦娥奔月(じょうがほんげつ/ cháng é bēn yuè)や玉兔(ぎょくと/ yùtù)、呉剛伐桂(ごごうさいけい/wú gang fá guì)などの物語が有名です。いずれも月にまつわるおはなしで、嫦娥奔月は一説では竹取物語の元ネタでは?ともいわれているようです。玉兎の伝承には複数のストーリー異なるストーリーがありますが、どれも月とウサギの因果関係が語られています。ここではそれぞれの物語の詳細は省きますが、気になった方はぜひ調べてみてくださいね。
農業の行事と結びつき『芋名月』と呼ばれることもある中秋の名月。年によっては満月から数日ずれることもあるようですが、おおむねまんまるのお月さまは家族団らんを象徴するともされ、中秋節は別名『団欒節』とも言われています。
そして日本の月見団子ように、円い食べ物が縁起ものとして食されます。そのなかで最も人気で重要なものとされているのが『月餅』です。
月餅(げっぺい/ yuè bing)をご存じでない方は、お饅頭やおやきをイメージしていただければ概ね近いかと思います。
表面に美しい模様の施された皮のなかに、こしあんや蓮の実餡、ナッツ類などを詰めた甘い焼き菓子スタイルの「広式月餅」(広州発祥)が主流ですが、地域ごとに「京式月餅」(北京・天津発祥)「蘇式月餅」(蘇州発祥)などさまざまなスタイルがあり、微妙に生地や見た目、中身が異なります。
最近ではフルーツ餡やチョコレート、クリームチーズなどバリエーションに富んだ現代風アレンジの月餅が次々と登場し、昔ながらの菓子店から高級ホテルまで様々なメーカーから売り出されています。甘味系だけではなく、お肉やシーフードなどのおかず系フィリングも流行っているとか。
日本でもこのシーズンになると中華街や中国料理店、デパートで購入することができます。
話題性を求めて毎年あらゆるメーカーがオリジナルの月餅を開発していますが、ここ数年は中国でも健康志向が注目されているため、脂肪分と糖分の少ないもの、ヘルシーな食材を使ったものが人気なようです。一方で、アワビやナマコなど高級食材を使ったものも、ちょっと贅沢なプレゼントとして購入されているとか。
ちなみに購買の主力のひとつであるZ世代には、ポップな見た目と様々なフレーバーが楽しめる「カラフル月餅」などが人気なんだそうです。
中国では中秋節に月餅を贈りあう習慣がありますが、伝統的な季節商品としては年々市場規模が拡大する非常に珍しい商品ということもあり、月餅はビジネスチャンスとして国内外で注目されています。近年では、アイスクリームショップとして有名なハーゲンダッツや、シアトル発のコーヒーショップ・スターバックスコーヒーなどの外国企業がオリジナル月餅や限定デザインのグッズを販売したことも話題になりました。
中国のリサーチ会社の分析データによると、中国の月餅売上高は2015年の131億8000万元(約2243億9345万円)から2020年には205億2000万元(約3493億5916万円)に増加したとのこと。2021年は新型コロナウイルス感染症の流行で連休中の帰省が制限された影響などで売上げは一時的に鈍化していたようですが、今年は制限が緩和されたことから月餅の需要も回復、拡大すると予想されています。
またECサイトの隆盛にあわせ、月餅商戦の主戦場にネットショップも加わっているため、中国国外での市場拡大・消費増大も見込めるようです。
国境を跨ぐ輸送のなかで最もハードルが高い物品のひとつが食品です。
使用される原材料や原材料の生産地、加工法や配合率などによっては、国を問わず輸出・輸入が制限・禁止されているものがあり、食の安全の観点から世界各国がそれぞれの基準で厳格にコントロールしています。
中秋節シーズンに輸送が激増する月餅も、使用されている原材料や生産地によっては輸出入が制限、あるいは禁止されている場合もあるそうです。
現在ドイツやフランス、タイ、シンガポールなど約30か国では中国産月餅の輸入が禁止されています。米国、オーストラリア、ニュージーランドでは、卵黄を含む月餅の輸入、マレーシアやカナダでは、豚肉を含む月餅の輸入がそれぞれ禁止されています。ちなみに日本では数量など一部条件付きで月餅の輸入が認められています。逆に、中国でも外国で生産された「肉・卵を使用した月餅」などの所持・輸入が禁止されているとのこと。
個人的に中国のECサイトから購入する場合にも細かい制限があり、魅力的な市場とはいえ、月餅の輸入販売をビジネスにするのはなかなか難しそうですね。手軽に本場の味にチャレンジしたい方は日本のECサイトや実店舗で販売されている中国・香港・台湾などの輸入品を購入するのがよいかもしれませんね。
食品の通関や輸送については、後日別の記事でも解説する予定ですので、興味がある方はぜひお楽しみに!
もともと先祖供養のお供え物でもあった月餅は、現代では親や友人への帰省の手土産からビジネスパートナーや顧客への贈答品まで様々な用途のものが販売されるようになりました。一部では年々豪華なものが発売され、金箔を施した箱やマホガニーなど高級素材の箱に入った月餅から、月餅の「おまけ」として高級ワインや貴金属、果ては住宅がセットになった桁違いの高級月餅セットが発売されたこともあるとか。
こうした商品は「天価月餅」と呼ばれ、中国政府によってたびたび規制がかけられています。今年(2022年)も、過剰包装や500元(約一万円)の高級月餅には規制がかかっているそうです。
とはいえ、世間一般では例年100元(約2000円)前後の商品が好まれており、一番売れ行きがよいのは60~70元くらいの価格帯とのこと。経済的にもカロリーオフがよしとされているようですね。
月餅メーカーから発売されたチケットを対象店舗に持っていくことで商品と交換ができる『月餅券』なるものが中国では割と以前から浸透しています。中秋節によくあるユーザー側の『貰い物の月餅がありすぎて困る』問題や、メーカー側の『多く作りすぎて廃棄になるのも、作るのを控えすぎて足りなくても困る』問題を解決できる優れもの、とされています。近年では電子チケットとしてECショップでダウンロード形式の販売もされているとか。
そんな月餅券ですが、人気ブランド・メーカーの月餅券がオークションサイトで高額転売・換金されることが問題視されており、取り締まりの対象となることもあるそうです。
また、月餅券をもらった人が月餅そのものと引き換えをせずさらに別の人への贈り物に転用し、結局だれも商品と引き換えないままになるケースも多いそう。
中には買い取り業者(いわゆるダフ屋)にユーザーが月餅券を元値の数割価格で売り、ダフ屋はそれに利益を少し乗せた価格(元の販売価格よりすこし安いくらい)でメーカーに月餅券を買い取らせ、メーカーは買い取った月餅券を正規価格でユーザーに売るという、月餅本体がどこにも登場しない不思議なビジネスも成立している、という現状もあるそうです。
チケットを販売し後日現物と引き換えるスタイルは月餅だけでなく、鮮度が命の上海ガニの贈答にも用いられているようですね。
最後に、中国で贈り物をする際の基本的な文化、風習を確認しておきましょう。
日本では謙遜が美徳とされているため、『つまらないものですが・・・』と相手への謙遜のメッセージと共に贈り物を渡すシーンがよくあります。
中国ではこのような贈る側の謙遜はかえって失礼にあたる可能性があります。
贈り物の金額にかかわらず、ストレートに『ほかでもないあなたのために、とっておきの素晴らしいものを用意しましたよ!』と伝えるくらいがよいとされています。
逆に受け取り側は礼儀として数度受け取りを断ることがあります。このときも、贈る側は『そうおっしゃらず、ぜひ受け取ってください』と繰り返し伝えて大丈夫です。
また日本では、プレゼントや贈答品には値札をつけることはタブーとされていますが、中国ではその限りではないそうです。
値札をつけておくことは新品の証でもあり、同時に「これだけの金額のプレゼントを用意したのは、それほどあなたが大切ということです」というメッセージをこめているのだとか。
お互いの価値観や文化を尊重する気持ちを大切にすることで、贈り物を通じてさらに親交を深めることができるとよいですね。
今回は日本にも関連のあるシーズンイベント『中秋節』と、それをとりまく文化の一つとして『月餅』にまつわるアレコレをお届けいたしました。
これからも、中国ビジネスに携わるみなさまにお役に立つ情報を発信してまいります。
どうぞお楽しみに!